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論評RONPYOIndependent Research
OPEN FILE大量保有報告論評編集部公開 2026.05.25更新 2026.06.13

マラソン・アセット、セガサミーHDに5.13%保有公示—英系長期投資

【結論】Marathon Asset Management Limitedがセガサミーホールディングスに5.13%の保有を新規公示した事実は、1986年創業の英国独立系長期運用会社が、Rovio関連の一時的減損によって純損失に転落しながらも増収・営業黒字を維持する発行体の「正常化後の収益力」に着目し、キャピタル・サイクル哲学に基づくポジション構築を行ったものと見るのが自然だ。

保有割合
5.13%
発行済213,545,376株に対して
保有株数
10,954,800株
新規取得(直前報告なし)
報告種別
新規・特例対象
金融商品取引法第27条の26第1項
保有目的
長期投資
投資一任契約に基づく顧客資産運用/重要提案行為の記載なし

出典:EDINET提出の大量保有報告書(2026年5月10日提出、義務発生日2026年5月5日)、セガサミーホールディングス2026年3月期決算短信

第1章

サマリー

Marathon Asset Management Limited(以下「マラソン」)は2026年5月5日を義務発生日として、セガサミーホールディングス株式会社(証券コード:6460、東京証券取引所プライム市場)の株式10,954,800株・5.13%を保有する旨の大量保有報告書を2026年5月10日にEDINETへ提出した。直前報告書は存在せず、今回が新規の初回開示にあたる。

発行体
セガサミーホールディングス株式会社(6460)
提出者
Marathon Asset Management Limited(英国ロンドン)
義務発生日
2026年5月5日
提出日
2026年5月10日
根拠条文
金融商品取引法第27条の26第1項(特例対象株券等)
発行済株式総数
213,545,376株(2026年5月5日現在)
保有株数
10,954,800株
保有割合
5.13%
保有目的
長期投資(投資一任契約に基づく顧客の資産運用のため)
重要提案行為等
記載なし
取得資金
開示なし(特例対象のため)
貸借契約
なし
連絡先
長島・大野・常松法律事務所 弁護士 金田裕己

出典:EDINET提出の大量保有報告書(2026年5月10日)

第2章

提出者とは

Marathon Asset Management LimitedはEDINET登記上の設立日を2019年7月1日とするが、これは英国における法人再編上の日付に過ぎず、実質的な前身法人は1986年にロンドンで創業された独立系運用会社である。運用資産残高は約3.6兆円規模(約260億ドル相当)とされ、日本株は全体の約1.5%以上を保有するアジア最大級の独立系グローバル株式運用会社の一つとして市場関係者に認知されている。JR東日本・JR西日本等のインフラ系大型株での保有実績も確認されており、日本市場では「Marathon-London」の名称で知られる。

マラソンの運用哲学の核心はキャピタル・サイクル哲学(Capital Cycle Philosophy)にある。個別企業の短期利益予想よりも、産業全体の資本投下サイクル——過剰投資期・調整期・回復期——を俯瞰し、業界全体が悲観に傾き新規投資が抑制され始めた局面で先行的にポジションを構築するという長期逆張り投資の手法だ。「伝統的なバリュー投資でも成長株投資でもない」と自ら標榜し、複数年単位の超長期保有を前提とした運用スタイルと整合する。

設立(実質的創業)
1986年(ロンドン)
EDINET登記上の設立日
2019年7月1日(法人再編による)
運用資産残高(AUM)
約3.6兆円規模
日本株保有比率
AUMの約1.5%以上
投資哲学
キャピタル・サイクル哲学に基づく長期逆張り投資
日本市場での既知保有先
JR東日本・JR西日本等インフラ系大型株

出典:EDINET提出の大量保有報告書(2026年5月10日)、同社公開情報

「長期投資(投資一任契約に基づく顧客の資産運用のため)」という今回の保有目的記載は、このマラソン固有の哲学を簡潔に反映するものであり、経営介入を伴うアクティビスト型ファンドとは明確に異なるスペクトル上に位置する。同時期に提出された他社の大量保有報告書においてオアシス・マネジメントが「ポートフォリオ投資より重要提案行為」、アセンダー・キャピタルが「重要提案行為等を行うこと」と断言形式を採用するのとは対照的に、マラソンの記述は経営介入意図の不在を明示している。

第3章

取得の構造

本報告書は特例対象株券等に基づく提出であるため、取得資金の詳細は開示されていない。ただし、義務発生日である2026年5月5日は、セガサミーHDが同年5月2日に2026年3月期の本決算を開示した直後にあたる。この決算開示と保有義務発生の時間的近接は、マラソンが決算内容を確認ないし織り込んだうえでポジションを確立した可能性を示唆する。

発行体であるセガサミーHDの2026年3月期業績は、売上高4,875億円(前期比+13.7%)と増収を達成しながら、純損失57.5億円に転落するという「増収・純損失」の構図を呈した。純損失の主因はRovio(フィンランドのAngry Birdsゲーム開発元)関連の減損損失計上という非経常的な会計処理であり、調整後EBITDAは1,666億円(前期比▲73.3%)と大幅に変化した。

項目 2025年3月期(実績) 2026年3月期(実績) 前期比
売上高 4,286億円 4,875億円 +13.7%
営業利益 481億円 471億円 ▲2.1%
純利益 黒字 ▲57.5億円 純損失転落
調整後EBITDA 6,228億円 1,666億円 ▲73.3%
ROE(2025年3月期) 12.2%(目標ROE10%超を超過)

出典:セガサミーホールディングス2026年3月期決算短信、2025年3月期決算短信

遊技機事業は2026年3月期に規制緩和に伴う機種投入の恩恵を受けて好調に推移し、パチスロ・パチンコ事業は安定したキャッシュフロー源として機能している。414億円規模の株主還元(配当・自己株取得)を支えるCF創出能力も確認されている。また、韓国・パラダイスシティを含む海外ゲーミング事業の拡大と、大阪・和歌山でのIR(統合型リゾート)計画の進行が次の成長ドライバーとして認識されている。

中期経営計画(2025〜2027年3月期の3カ年)では、調整後EBITDA合計2,300億円超・ROE平均10%超を目標とし、2025年3月期においてROE12.2%の達成実績がある。自己資本比率59.1%(2025年3月期末)というネットキャッシュを維持する財務基盤も、長期投資家の目線では注目点となり得る。

出典:セガサミーホールディングス2026年3月期決算短信、中期経営計画資料

第4章

論点の整理

本保有報告から導かれる主要な論点は以下の3点である。

論点①:減損の「一時性」判断の妥当性
純損失57.5億円の主因であるRovio関連の減損損失は、M&Aに伴う非経常的な会計処理とされる。マラソンのキャピタル・サイクル分析は、この悪化を「一時的」と評価してポジションを構築したと推察されるが、Rovioを含むモバイルゲーム事業の収益貢献が中計期間内に想定通り正常化するかどうかは、投資論説の核心的前提となる。変更報告書における保有継続・積み増しの有無が、この前提に対するマラソン自身の評価更新を映す指標となり得る。

論点②:遊技機規制とキャッシュフロー持続性
パチスロ・パチンコ事業は規制環境に大きく左右される構造を持つ。過去の規制強化局面では業界全体のキャッシュフローが急減した実績があり、今後の規制動向次第では安定CF源としての前提が崩れる可能性がある。マラソンが「構造的悪化」と判断を改める場合、変更報告書での5%未満への低下がその判断転換のシグナルとなり得る。

論点③:IR事業の実現可能性と時間軸
大阪IRの本格稼働は複数年先の話であり、許認可・建設・開業の各段階でスケジュール遅延が生じる可能性は排除できない。長期保有を前提とするマラソンにとっては許容範囲内のリスクと見られるが、IR計画の具体的進捗が保有継続の判断材料になるかどうかは、今後の公開情報の中で確認される論点となる。

出典:EDINET提出の大量保有報告書(2026年5月10日)、セガサミーホールディングス各種公開資料をもとに論評編集部が整理

以上を踏まえると、今回の新規保有公示はマラソンが一時的な業績悪化局面をキャピタル・サイクルの参入機会と捉えた長期投資として構造的に整合しており、今後の変更報告書の動向——保有継続か積み増しか縮小か——がコンビクション強度を測る最初の定量的節目となると見るのが自然だ。

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