エイベックス株式会社
エイベックスは2021年3月期の本社ビル売却により財政状態を大きく改善させたが、本業の収益力は低水準にとどまっており、コロナ後の環境下でも2013年度前半の水準には戻っていない。音楽・映像・デジタルの三事業がそれぞれ構造的な転換を迫られている状況を踏まえれば、業績の本格回復には相応の時間を要すると見るのが自然だ。
出典:エイベックス株式会社 有価証券報告書(2013年3月期〜2022年3月期)
財政状態の推移:純資産とネットキャッシュ
エイベックスの連結純資産および1株当たり純資産は、2013年3月期から2019年3月期にかけておおむね横ばいで推移していた。しかし2020年3月期に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で赤字となり、両指標はともに減少した。翌2021年3月期には本社ビルの売却により287億円の特別利益を計上した結果、純資産・1株当たり純資産はともに大きく反転している。
1株当たり純資産は2013年3月期の1,059円から2022年3月期の1,285円へと推移しており、10年間で約1.2倍の水準となっている。大幅な増加ではないものの、安定的な推移と見ることができる。
ネットキャッシュ(現金及び現金同等物から有利子負債を控除した実質的な手元資金)は、2015年3月期以降減少が続き、2020年3月期にはマイナスへ転落した。コロナ禍による業績不振が資金繰りに影響したと考えられる。2021年3月期の本社ビル売却による多額の資金流入と有利子負債の返済進捗により、ネットキャッシュは525億円と急増した。2022年3月期も現金及び預金が446億円と高水準を維持しており、総資産978億円の45%を占めるまでに至っている。
| 指標 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 |
|---|---|---|---|
| 1株当たり純資産 | 減少 | 大幅増 | 1,285円 |
| ネットキャッシュ | マイナス転落 | 525億円 | 高水準維持 |
| 現金及び預金 | — | — | 446億円 |
出典:エイベックス株式会社 有価証券報告書。純資産は純資産合計額から新株予約権および非支配株主持分を控除して算定。
安全性指標の推移:流動比率と自己資本比率
流動比率および自己資本比率はいずれも、2013年3月期から2020年3月期にかけて緩やかな減少傾向を示していた。流動比率は同期間において80%〜120%のレンジで推移していたが、2021年3月期に188%、2022年3月期に212%へと大幅に上昇した。本社ビル売却によって固定資産が減少するとともに多額のキャッシュが流入したことが主因である。
自己資本比率も流動比率と概ね連動した動きを示しており、2020年3月期までの低下傾向から2021年3月期以降に大きく反転している。ただし、この改善は本業による利益蓄積ではなく、資産売却に起因するものである点は区別して評価する必要がある。
| 指標 | 2013〜2020年3月期の傾向 | 2021年3月期 | 2022年3月期 |
|---|---|---|---|
| 流動比率 | 80〜120%で減少傾向 | 188% | 212% |
| 自己資本比率 | 緩やかに低下 | 大幅反転 | 継続改善 |
出典:エイベックス株式会社 有価証券報告書(連結ベース)
売上高の推移とセグメント別動向
連結売上高は2013年3月期以降、おおむね1,300億円〜1,600億円近辺で推移していたが、2020年3月期・2021年3月期と連続して大幅に減少した。新型コロナウイルス感染症の拡大によるライブイベントの自粛やイベント関連売上の減少が主因と考えられる。
2020年3月期からの事業セグメントは以下の3区分となっている。
セグメント別では、2020年3月期から2021年3月期にかけて全セグメントで売上高が減少した。2021年3月期から2022年3月期にかけては、ライブ公演数の増加やEコマース売上の増加等を背景に、全体として売上高が回復に転じている。
| セグメント | 2020→2021年3月期 | 2021→2022年3月期 |
|---|---|---|
| 音楽事業 | 減少 | 増加 |
| アニメ・映像事業 | 減少 | 増加 |
| デジタル・プラットフォーム事業 | 減少 | 増加 |
出典:エイベックス株式会社 有価証券報告書(連結ベース)
収益性の推移:営業利益と利益率
営業利益は2013年3月期以降おおむね減少傾向が続いており、2018年3月期・2019年3月期に一時的な反転上昇を示した後、2020年3月期から大幅に減少した。2021年3月期には営業利益がマイナスに転落した一方、本社ビル売却による特別利益の計上により当期純利益は大きく増加した。2022年3月期には営業利益は黒字に回帰したが、収益力は低水準にとどまっている。
営業利益率・当期純利益率はいずれも長期的な右肩下がりの傾向を示してきた。2022年3月期には新型コロナウイルスの影響軽減とともに音楽事業を中心に活動が回復し、売上高・営業利益ともに増収増益となったが、2010年代前半の水準への回復には至っていない。
2023年3月期の業績予想については減収減益が見込まれており、本業の収益回復の道筋はなお不透明である。消費者のメディア接触がテレビからネットへと移行するなか、ビジネスモデルの転換も課題となっており、コロナ影響の収束のみをもって業績が回復するとは言い切れない構造にある。
| 指標 | 2020年3月期 | 2021年3月期 | 2022年3月期 |
|---|---|---|---|
| 営業利益 | 大幅減少 | マイナス転落 | 黒字回帰(低水準) |
| 当期純利益 | 赤字 | 大幅増(特別利益寄与) | — |
| 売上高営業利益率 | 低下 | マイナス | 回復(低水準) |
出典:エイベックス株式会社 有価証券報告書(連結ベース)
論点の整理
旧記事の分析を整理すると、エイベックスをめぐる構造的な論点は以下の3点に集約される。
出典:エイベックス株式会社 有価証券報告書(2013年3月期〜2022年3月期)をもとに論評編集部が整理
この財務構造を、どう追うか
本業の収益回復の進捗、手元現金の活用方針(投資・還元・返済)、セグメント別の利益率動向を継続して記録する。業績予想の修正や事業再編の動きがあれば、企業カルテに反映する。
