香港ファンドが仕掛ける──Long Corridor、エス・サイエンス株
【結論】Long Corridor Asset Managementによるエス・サイエンスへの関与は、新株予約権取得・行使・市場売却を組み合わせた多段階の操作であり、保有比率の数値変動よりも、その構造的な仕組みそのものを継続して注視すべきと見るのが自然だ。
出典:2025年9月10日提出・大量保有変更報告書(エス・サイエンス株式会社)
サマリー
2025年9月10日に提出された変更報告書によれば、Long Corridor Asset Management(以下LCAM)はエス・サイエンス株式会社の保有比率を13.88%へと引き下げた(変更前比▼1.02%pt)。依然として10%超を保有する大株主の地位にあるが、その経緯は単純な市場売却ではなく、新株予約権の取得・行使・市場外売却を組み合わせた複合的な操作によるものである。
出典:2025年9月10日提出・大量保有変更報告書
提出者とは
素性と運用スタイル
Long Corridor Asset Management(LCAM)は2018年に香港で設立された投資運用会社で、アジア太平洋地域の株式・新株予約権・デリバティブにまたがる運用を強みとする。創業メンバーはかつて香港の著名ファンドNine Masts Capitalに在籍した経歴を持ち、その運用哲学を継承しているとされる。運用責任者はオアシスマネジメントやNine Mastsでの勤務経験を持つイベント投資・アクティビスト寄りの投資手法に精通した人物とされる。
LCAMは香港を主拠点としつつ、東京・丸の内にも拠点を置き、金融庁に登録された国内拠点を通じて日本企業にアプローチしている。実際の出資はケイマン籍のLong Corridor Alpha Opportunities Master Fundを中心に、MAP246(Lighthouse系)・BEMAP Master Fund(Blackstone傘下とされる)など複数のファンド顧客資金から構成されている。香港という「窓口」を通じて、米系・欧州系の大規模資金を日本市場に流入させるハブとして機能している構図がある。
出典:大量保有変更報告書記載事項および旧記事掲載情報
取得の構造
新株予約権を軸にした多段階操作
今回の変更報告書が示す売買の軌跡は、市場内外にわたる複合的な操作である。以下の時系列が報告書から確認できる。
| 日付 | 内容 | 数量・条件 |
|---|---|---|
| 8月15日 | 市場外取得 | 5,000,000株 |
| 8月15日 | 市場内処分 | 2,000,000株 |
| 8月17日 | 市場内処分 | 1,500,000株 |
| 9月1日 | 第8回新株予約権取得 | 3,345口(行使価額@122円) |
| 9月1日 | 新株予約権行使・株式取得 | 1,415口行使→14,159,000株取得 |
| 9月1日 | 市場外処分 | 5,272,000株(@263円) |
| 9月6日 | 市場内処分 | 5,000,000株 |
出典:2025年9月10日提出・大量保有変更報告書
取得資金の一部はメリルリンチ・インターナショナル(ロンドン)からの借入(金利2.39%)によって賄われている。香港ファンドという外形をとりながら、背後ではロンドンを経由した欧米資金が流入している点は、資金の多層性として特筆される。また、エス・サイエンスが発行した第8回新株予約権は発行会社取締役会の承認を要する条件付きでLCAMおよび関係ファンドが引き受けており、企業側が外部ファンドに対して資金調達の窓口を開いたという事実も報告書から確認できる。
結果として保有株数の絶対数は大きく変動しているものの、総株式数の変動と一部処分の組み合わせにより保有比率は低下した。
論点の整理
本件から浮かび上がる構造的論点は以下の3点に集約される。
出典:大量保有変更報告書記載事項および旧記事掲載情報をもとに論評編集部が整理
LCAMの保有比率は数値上減少した。しかし問題は数字ではない。新株予約権・借入・複数ファンド資金を組み合わせて小型上場企業株式を操作する構造そのものが、日本市場における脆弱な企業ガバナンスと共鳴している点を継続して注視すべきと見るのが自然だ。
この保有を、どう見るか
変更報告書・追加取得の有無を継続して記録する。保有目的に動きがあれば、企業カルテに反映する。
